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熊本地方裁判所 昭和56年(行ウ)10号 判決

熊本市壺川二丁目一番三九号

原告

山口ミツ

熊本市水前寺五丁目七番八号

原告

山口博文

熊本市出町五番二八号

原告

山口節二

熊本市壺川二丁目一番三九号

原告

山口洋三

原告四名訴訟代理人弁護士

佐藤義行

大塚正民

熊本市二の丸一番四号

被告

熊本西税務署長

井田昭典

右指定代理人

吉松悟

末廣成文

管祝久

崎山正春

福山俊光

西山俊三

井寺洪太

右当事者の更正処分等取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  被告が、原告らに対し昭和五一年六月三日付でした原告らの被相続人 山口亀鶴の昭和四九年分所得税の更正処分中納付すべき金額 金一三五九万六六〇〇円中金一三五九万四一〇〇円を超えてした二五〇〇円の課税処分を取り消す。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告らに対し、昭和五一年六月三日付でした原告らの被相続人 山口亀鶴の昭和四九年分所得税の更正処分を取り消す。

2  被告が原告山口ミツに対し昭和五一年六月三日付でした昭和四九年分所得税の更正処分を取消す。

3  被告が原告山口節二に対し同原告の昭和五四年六月一二日付昭和五〇年所得税の更正の請求に対し昭和五四年一〇月三〇日付でした更正通知処分のうち一部認容した部分を除くその余の処分を取り消す。

4  被告が、原告山口節二に対し同原告の昭和五四年六月一二日付昭和五〇年所得税の更正の請求に対し昭和五四年一一月一二日付でした更正通知処分のうち一部認容した部分を除くその余の処分を取り消す。

5  被告が原告山口洋三に対し同原告の昭和五四年六月一二日付昭和五〇年所得税の更正の請求に対し昭和五四年一〇月三〇日付でした更正通知処分のうち一部認容した部分を除くその余の処分を取り消す。

6  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  山口亀鶴(以下「亀鶴」という。)は、昭和四九年一二月三日死亡したので、原告らが相続により亀鶴の一切の権利義務を承継し、所得税法(以下「法」という)一二五条により、亀鶴の昭和四九年分所得税につき昭和五〇年三月一五日付で、総所得金額 一六六八万三二七一円、分離長期譲渡所得 〇、納付すべき税額 二七五万一二〇〇円とする確定申告をしたところ、被告は、昭和五一年六月三日付で、総所得金額 一六六八万三二七一円、分離長期譲渡所得金額 五四二二万七五〇〇円、納付すべき税額 一三五九万六六〇〇円とする更正処分をした(以下「一の更正処分「という。)。その後の異議申立て、これに対する棄却の異議決定、さらに審査請求、これに対する棄却の裁決の経緯は、別表一の1記載のとおりであり、右裁決書謄本は、原告山口ミツ、同山口節二、同山口洋三(以下「原告ミツ、同節二、同洋三」という。)に対し昭和五六年七月六日、原告山口博文に対し昭和五六年七月七日に送達された。

(二)  一の更正処分のうち分離長期譲渡所得は、別紙物件目録記載(一)の不動産(以下「(一)の物件」という。)の譲渡代金に関するものであるところ、右譲渡代金は、保証債務の弁済にあてられたものであつて回収不能であるから法六四条二項により右所得がなかつたものとみなされるから、譲渡所得を認定した一の更正処分は、違法である。

2(一)  原告節二は、昭和五〇年三月一五日付で昭和四九年分所得税につき、総所得金額 一七七万〇九六六円、分離長期譲渡所得金額 〇、還付されるべき金額 五三万四八五四円とする確定申告をしたところ、被告は、昭和五一年六月三日付で昭和四九年分所得税につき、総所得金額 一七七万〇九六六円、分離長期譲渡所得金額 二億三六三五万円、納付すべき金額 四六六九万五五〇〇円とする更正処分をした(以下「二の更正処分」という。)。その後の異議申立て、これに対する棄却の異議決定、審査請求、これに対する棄却の裁決の経緯は、別表二の1記載のとおりであり、右裁決書謄本は、昭和五六年七月五日、原告節二に送達された。

(二)  しかしながら、二の更正処分の分離長期譲渡所得は、別紙物件目録記載(二)の不動産(以下「(二)の物件」という。)の譲渡代金に関するものであるところ、右譲渡代金は、保証債務の弁済にあてられたものであつて回収不能であり、法六四条二項により右所得がなかつたものとみなされるから、所得を認定した二の更正処分は違法である。

3(一)  原告ミツは、昭和五一年三月一五日付で昭和五〇年分所得税につき、総所得金額 一二八五万七三〇六円、分離長期譲渡所得金額 六三六四万三五七八円、納付すべき税額 一四五四万一六〇〇円とする確定申告をし、次いで別表三の1記載のとおり昭和五一年七月一七日付更正の請求、これに対する更正の通知処分、昭和五四年六月一二日付で総所得金額 一二八五万七三〇六円、分離長期譲渡所得の損失金額 二二七万四七六九円、納付すべき税額 七八万七二〇〇円とする更正の請求をしたところ、昭和五四年一〇月三〇日付で、総所得金額 一二八五万七三〇六円、分離長期譲渡所得金額 三一二三万三三三五円、納付すべき税額 八二二万〇六〇〇円とする更正通知処分をした(以下「三の更正処分」という。)その後の異議申立て、これに対する棄却の異議決定、審査請求、これに対する棄却の裁決の経緯は、別表三の1記載のとおりであり、右裁決書謄本は、昭和五六年七月一一日、原告ミツに送達された。

(二)  しかしながら、三の更正処分の分離長期譲渡所得は、別表六の1ないし5記載の不動産(以下「1ないし5の物件」という。同表の他の物件についても同表の番号により同様に表示する。)の譲渡代金に関するものであるところ、1ないし3の物件の右譲渡代金も、4、5の物件と同様に保証債務の弁済にあてられたものであつて回収不能であり、法六四条二項によつて右所得はなかつたものとみなされるものであり、仮りにそうでないとしても、1ないし3の物件も、実質的には株式会社太洋(以下「太洋」という。)に譲渡したものであつて、太洋に対する会社更生法に基づく更生計画認可決定によりその譲渡代金の一部が削減されたものであるから、法六四条一項により右所得のうち回収不能部分をなかつたものとすべきであるのに右条項によらずに譲渡所得を認定した三の更正処分は違法である。

4(一)  原告節二は、昭和五一年三月一五日付で昭和五〇年分所得税につき総所得金額 六二九万三三七二円、分離長期譲渡所得金額 四二〇九万五七一八円、納付すべき税額 八三三万〇三〇〇円とする確定申告をし、さらに、別表四の1記載のとおり、昭和五一年七月一七日付更正の請求、これに対する更正通知処分、昭和五四年六月一二日付で総所得金額 六二九万三三七二円、分離長期譲渡所得の損失金額 一五一万六五一二円、還付されるべき金額 四四万二三九九円とする更正の請求をしたところ、昭和五四年一一月一二日付で、総所得金額 六二九万三三七二円、分離長期譲渡所得金額 二〇四八万八八八七円、納付すべき税額 四二〇円一三〇〇円とする更正通知処分をした(以下「四の更正処分」という。)。その後の異議申立て、これに対する棄却の異議決定、審査請求、これに対する棄却の裁決の経緯は、別表四の1記載のとおりであり、右裁決書謄本は、昭和五六年七月二三日、原告節二に送達された。

(二)  しかしながら、四の更正処分の分離長期譲渡所得は、1ないし5の物件に関するものであり、1ないし3の物件については、右3(二)記載のとおり法六四条二項又は同条一項の適用をすべきものであるから、一部所得がなかつたものとすべきであるのに譲渡所得を認定した四の更正処分は違法である。

5(一)  原告洋三は、昭和五一年三月一五日付で昭和五〇年分所得税につき、総所得金額 五〇八万〇三九四円、分離長期譲渡所得金額 一億〇四一九万五七一八円、納付すべき税額 二〇六〇万五五〇〇円とする確定申告をし、その後、別表五の1記載のとおり更正の請求、これに対する更正通知処分、さらに、昭和五四年六月一二日付で総所得金額五九四万八四九四円、分離長期譲渡所得の損失金額 九万六五一三円、還付されるべき金額 三万四四七四円とする更正の請求をしたところ、昭和五四年一〇月三〇日付で、総所得金額 五九四万八四九四円、分離長期譲渡所得金額三七三〇万三八八七円、納付すべき税額 七六四万三四〇〇円とする更正通知処分をした(以下「五の更正処分「という。)。その後の異議申立て、これに対する棄却の異議決定、審査請求、これに対する棄却の裁決の経緯は、別表五の1記載のとおりであり、右裁決書謄本は、昭和五六年七月一七日、原告洋三に送達された。

(二)  しかしながら、五の更正処分の分離長期譲渡所得は、1ないし6の物件に関するものであり、1ないし3の物件も、4ないし6の物件と同様に3(二)記載の事由により法六四条二項又は同条一項によつて一部所得がなかつたものとすべきであるのに譲渡所得を認定した五の更正処分は違法である。

6  よつて、一、二の更正処分の取消し及び三ないし五の更正処分のうち右違法な部分の取消しを求める

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし5の各(一)事実は認める。

2  同1ないし5の各(二)の事実中、一の更正処分が(一)の物件、二の更正処分が(二)の物件、三、四の各更正処分が1ないし5の物件、五の更正処分が1ないし6の物件に関するものであることは認め、その余は争う。

三  被告の主張

1ないし五の更正処分は、以下の理由によるものであつて適法である。

1  亀鶴が代表取締役であつた太洋は、昭和四八年一一月二九日に火災事故によつて多数の顧客及び従業員を被災させ、被災者らに対する多額の補償金、営業継続のための資金等を太洋のみでは調達することが困難な状態となり、亀鶴及び原告らが太洋の再建資金を提供するため個人財産である(一)、(二)の物件及び1ないし6の物件を売却し、右売却代金を太洋に交付して太洋の債務の弁済等に当てた。

2  一の更正処分につき

一の更正処分の分離長期譲渡所得は、(一)の物件の譲渡代金に関するものであるところ、亀鶴は、昭和四九年六月、田上正昭に対し五八四五万円で譲渡したもので、収入金額五八四五万、右譲渡に関し必要経費など控除をしうる金額は四二二万二五〇〇円であるから、右譲渡所得の金額は、五四二二万七五〇〇円、納付すべき税額は一三五九万六六〇〇円である。

亀鶴は、右譲渡代金を太洋に交付しほぼ全額の五八〇〇万円を太洋に対する借入金等の一億五一八九万五六九八円の債務に内入充当し、太洋は、帳簿上昭和四九年六月三〇日付で右債権に相当する仮払金に対する五八〇〇万円の仮払金の戻入れとして帳簿上処理している。従つて、右譲渡代金は、亀鶴が太洋の債務について負担した保証債務の履行として太洋に使用処分させたものではなく、仮にそうでないとしても、亀鶴は、個人財産を処分して太洋の資金を援助しても求償権の行使をしないことを表明したり、太洋に対する求償権行使が事実上不能であることを知りながら保証をしたことになるから、求償不能の金額につき法六四条二項の適用の余地はない。一の更正処分の算出根拠は別表一の2記載(但し、朱書部分を除く。)のとおりである。

3  二の更正処分につき

二の更正処分の分離長期譲渡所得は、(二)の物件の譲渡代金に関するものであるところ、原告節二は、昭和四九年四月三〇日、大進株式会社に右不動産を二億五三〇〇万円で譲渡したもので、収入金額二億五三〇〇万円、右譲渡に関し必要経費など控除をしうる金額は一六六五万円であるから、右譲渡所得の金額は、二億三六三五万円、納付すべき税額は四六六九万五五〇〇円である。

右譲渡代金は、原告節二が太洋に交付して同原告の太洋に対する借入金等の債務の四八五九万三七八八円の弁済に当て、残金二億〇一四〇万六二一二円を太洋に対し貸付けしたものである。そこで、太洋は、右譲渡代金を仮受金として帳簿上受け入れて同原告に対する仮払金及び未収金の戻入れとして記帳し、残額を仮受金として処理している。仮に右譲渡代金が太洋の債務につき負担した保証債務の履行として太洋に交付されその処理を委ねたものであるとしても右2記載の事由により法六四条二項の適用の余地はない。二の更正処分の算出根拠は、別表二の2記載(但し、朱書部分を除く。)のとおりである。

4(一)  三ないし五の更正処分につき

原告らは、亀鶴の死亡によつて共同相続し共有物件となつた1ないし5の物件、原告洋三は所有していた6の物件を別表六記載のとおり各買受人に売り渡した。4ないし6の物件の買受人は、太洋であり、1ないし3の物件の買受人は、太洋以外の者である。即ち、

(1) 1ないし3の物件については、各売買契約書上原告らと太洋以外の買受人との間で売買契約が締結されており、登記簿上も直接右買受人が所有権移転登記を経由し、確定申告においても、右買受人に譲渡したものとして申告している。

(2) 取締役と会社間の取引については、商法二六五条の規定により、取締役会の承認を要すべきところ、太洋の取締役会議事録(昭和五〇年一二月一〇日開催分)によれば、太洋の取締役である原告らから4ないし6の物件の購入につき承認がなされているが、1ないし3の物件の購入については何ら審議されていない。さらに、太洋の確定決算においても、4ないし6の物件については、その購入の事実を計上しており、しかも、翌期にはこの資産を転売して多額の利益を得ているが、1ないし3の物件に関しては、転売の利益は計上されておらず、その譲渡代金の全額は太洋が受け取り、太洋は、譲渡代金から仲介手数料を差し引いた残額を原告らからの仮受金として会計上処理している。他方、4ないし6の物件の譲渡代金については、太洋は帳簿上未払金として表示し、1ないし3の物件とは区別した会計上の処理をしている。従つて、1ないし3の物件に関する太洋の右仮受金は、原告らの太洋に対する貸付金であつて、法三五条に規定する雑所得の基因となる非事業の貸付金(準消費貸借)に該当するものとみるべきであり、この貸付金が太洋に対する更生計画の認可決定により回収不能となつた場合、右回収不能金額は、法五一条四項の規定により雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきである。

(3) 原告らは、太洋の会社更生手続において、会社更生法一二五条に基づき太洋に対する更生債権の届出をなし、更生債権認否表において無異議議決権額の一般更生債権として承認されているが、この更生債権の内容からすれば、本件譲渡に基づいて原告らが太洋に対して有することとなつた債権(太洋の経理では未払金もしくは仮受金債務)を基礎とし、右の額から、後記訴訟上の和解に基づき太洋が被災者らに支払つた補償金のうち原告らが負担すべき金額を差し引いた残額としている。

(4) 太洋の火災事故による被災者らは、昭和四九年五月二七日付で太洋と亀鶴に対して損害賠償請求訴訟を提起し、昭和五一年三月二六日、太洋と亀鶴の共同相続人である原告らが被災者らに対し総額約十九億円を連帯して支払う旨の和解が成立し、原告らは太洋との間で右補償金の支払いにつき原告らの負担額を一二億六四八二万五一〇〇円とする旨の合意をし、太洋が支払いをした補償金のうち原告らの負担分については、仮受金及び未払金債務と対当額で相殺している。

(二)  原告らの太洋に対する4ないし6の物件の譲渡代金は、全額未収となつていたところ、熊本地方裁判所は、昭和五四年四月一八日、太洋に対する更生計画の認可決定をし右譲渡代金の八〇パーセントを削減した。

(三)  三ないし五の更正処分の算出根拠は、別表三ないし五の各2記載のとおりである。

5  そこで、4ないし6の物件は、原告らが、太洋に譲渡し、太洋の更生計画の認可決定により右譲渡代金の一部が回収不能となつたものであるから法六四条一項、一五二条の規定に該当するとして右更正請求を認容したが、(一)、(二)の物件及び1ないし3の物件は、太洋に譲渡されたものではなく、太洋に対する更生計画の認可決定とはなんら関係がないから法六四条一項の適用の余地はなく、また、(一)、(二)の物件及び1ないし3の物件の譲渡代金は、亀鶴及び原告らが太洋の債務につき負担した保証債務の履行として太洋にその使用を委ねたものではなく、仮にそうでないとしても求償権行使をしないことを表明して保証をしたり、保証契約締結時に主債務者に対する求償権の行使が不能であることが明らかな場合であるから法六四条二項の適用の余地ない。よつて、(一)、(二)の物件及び1ないし3の物件に関する譲渡所得には、法六四条一、二項の適用をすべきではないとして一ないし五の更正処分をしたものである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同1の事実中、一の更正処分が(一)の物件の譲渡代金に関するものであり、亀鶴が、昭和四九年六月、田上正昭に対し五八四五万円で右物件を譲渡したことは認め、その余は争う。

3  同3の事実中、二の更正処分が(二)の物件の譲渡代金に関するものであり、原告節二が和四九年四月三〇日、大進株式会社に二億五三〇〇万円で右物件を譲渡したことは認め、その余は争う。

4(一)  同4(一)の事実中、4ないし6の物件の買受人が太洋であり別表六記載の年月日、金額で買い受けたことは認め、その余は争う。

(二)  同4(二)の事実は認める。

(二)  同4(三)の事実は争う。

5  同5は争う。

五  原告らの反論

1  亀鶴は、太洋の全債務について個人保証をしていたものであり、その相続人である原告らは、右保証債務を履行するため(一)、(二)の物件、1ないし6の物件等の個人資産の殆どすべてを太洋に提供し、それらの処分方法および代金受領の権限もまたすべて太洋に委ねたものであつて、右資産の譲渡が、実質的には保証債務を履行するためのものであるから、法六四条二項の定める「保証債務を履行するため資産の譲渡があつた場合」に該当するものと解すべきである。なお、1ないし3の物件は、前記経緯に照らし実質的にはすべて太洋が買受人であつて法六四条一項を適用して、右譲渡代金に関する譲渡所得を把握すべきである。

第三証拠

証拠は、本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載と同一であるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし5の各(一)事実及び一の更正処分が(一)の物件、二の更正処分が(二)の物件、三、四の各更正処分が1ないし5の物件、五の更正処分が1ないし6の物件に関するものであることは、当事者間に争いがない。

二  次に、本件の各更正処分が適法であるか否かを以下判断する。

1  被告主張の1の事実及び一の更正処分の分離長期譲渡所得は、亀鶴が(一)の物件を昭和四九年六月田上正昭に譲渡した代金五八四五万円、二の更正処分の分離長期譲渡所得は、原告節二が(二)の物件を昭和四九年四月三〇日、大進株式会社に譲渡した代金二億五三〇〇万円に関するものであること、原告らは、亀鶴の死亡により相続によつて1ないし5の物件を共有し、原告洋三は、6の物件を所有していたところ、1ないし3の買受人の点を除いて別表六記載のとおり売却したことは、当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない乙第一ないし第一〇号証、第一四号証の一ないし七、第一五号証の一ないし四、第一六号証の一ないし四、第一七号証の一ないし八、第一八号証の一ないし七、第一九号証、第二〇号証の一ないし九、第二一号証の一ないし五、第二二号証の一、二、第二五、第二六号証の各一、二、第二七号証の一ないし五、第二九、第三〇号証の各一、二、第三一、三二号証、第四五号証の一ないし三、第四六なしい第五一号証、原本の存在及び成立に争いのない同第五二ないし第六〇号証、第六一号証の一ないし三、第六二号証の一ないし七及び証人谷口肇(但し、後記採用しない部分を除く。)、同田下徳義、同守山正治、同田端孝好の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、亀鶴は、(一)の物件の譲渡代金を太洋に交付してほぼ全額の五八〇〇万円を亀鶴の太洋に対する借入金等の一億五一八九万五六九八円の債務に内入充当し、太洋は、帳簿上昭和四九年六月三〇日付で右債権に相当する仮受金に対する五八〇〇万円の仮払金の戻入れとして帳簿上処理しており、右譲渡代金は、亀鶴が太洋の債務について負担した保証債務の履行として太洋に使用処分をさせたものではないこと、原告節二は、(二)の物件の譲渡代金を太洋に交付して同原告の太洋に対する借入金等の四八五九万三七八八円の債務の弁済に当て、残金二億〇一四〇万六二一二円を太洋に対して貸し付け、太洋は、右譲渡代金を仮受金として帳簿上受け入れ、同原告に対する仮払金及び未収金の戻入れとして記帳し、残金を仮受金として処理しており、右譲渡代金は、原告節二が太洋の債務につき負担した保証債務の履行として太洋に使用処分をさせたものではないこと、次に(1) 1ないし3の物件については、原告らと太洋以外の別表六記載の各買受人との間の売買契約書が作成されており、他方、4ないし6の物件については、原告らと太洋との間で売買契約書が作成されて各契約を締結し、契約書上も1ないし3の物件と異なつた取扱がされ、1ないし3の物件については、直接買受人が移転登記を経由していること、(2) 原告らは太洋の取締役であり、太洋との取引(売買)については商法二六五条により取締役会の承認を要すべきところ、4ないし6の物件については右手続がされているが、1ないし3の物件については右手続がされておらず、右手続上においても区別した取扱がされていること、(3) 4ないし6の物件については、太洋の確定決算において購入の事実を計上し、翌期には右物件を転売して多額の利益を上げていること、(4) 太洋は、1ないし3の物件の譲渡代金を受領した後仲介手数料を差し引いた残金を仮受金として受入れ、さらに、一部を太洋が原告らに対して有していた仮払金債権の入金として振替処理を行い右仮払金債権の残高を○とし、さらに、振替後の残余金を仮受金として帳簿上処理し、4ないし6の物件の買受代金は、帳簿上未払金として計上し、一部を太洋の亀鶴等に対する仮払金債権に充当し、残額は未払金、仮受金として計上していること、(5) 原告らは、太洋の会社更生手続において、太洋の右未払金及び仮受金に対応する債権等を更生債権として届出をし、更生債権認否表において無異議議決権額の一般更生債権として承認されていること、(6) なお、太洋の火災事故による被災者らは、昭和四九年五月二七日付で太洋と亀鶴に対して損害賠償請求訴訟を提起し、昭和五一年三月二六日、太洋と亀鶴の共同相続人である原告らが被災者らに対し総額約一九億円を連帯して支払う旨の訴訟上の和解が成立し、原告らは、太洋との間で右補償金中七割相当の約一二億六五〇〇万円を負担する旨の合意をし、太洋が支払いをした補償金のうち原告らの右負担部分については、太洋の原告らに対する未払金及び仮受金債務と対当額で相殺していること等から、1ないし3の物件につき太洋が受領した譲渡代金は、仲介手数料等を差し引いた残額を借入することとし、原告らの太洋に対する貸付金とすることに原告らと太洋は合意したものであつて(準消費貸借の成立)、右譲渡代金は、原告らが太洋の債務につき負担した保証債務の履行として太洋に使用させたものではないこと、一ないし五の更正処分の各分離長期譲渡所得金額、納付すべき金額が原告主張の各金額(但し、一、二の各更正処分には、別表一、二の各2の朱書部分のとおりの誤算があり、一の更正処分における山口亀鶴の納付すべき税額は二五〇〇円過大であり、二の更正処分における山口節二の納付すべき税額は、五万八七〇〇円過少である。)ことが認められ証人谷口肇の証言中右認定に反する部分は、前顕その余の証拠に照らして採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  そうすると、原告らの請求中一の更正処分中納付すべき金額 一三五九万六六〇〇円中一三五九万四一〇〇円を超えてした二五〇〇円の課税処分は理由がないから右処分は取消しを免れず、右限度において原告らの請求は理由があり、その余は理由がない。(なお、二の更正処分における納付すべき税額は、別表二の2の算出額四六七五万四二〇〇円より五万八七〇〇円過少の四六六九万五五〇〇円であり、四、五の各更正処分における分離譲渡所得も別表四、五の2の算出額より二円過少等の誤算があるが、右誤算は、右各更正処分取消理由とはなりえない。)

よつて、原告らの請求は一部理由があるからこれを認容すべく、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 相良甲子彦 裁判官 吉田京子 裁判官 草野真人)

別紙

物件目録

(一) 熊本市新屋敷一丁目八番三号

宅地 五五一・七六平方メートル

(二) 同市手取本町四番四号及び同町四番五号

宅地 (合計) 一六七・三平方メートル

以上

別表一の1

〈省略〉

以上

別表一の2

〈省略〉

税額計算過程

〈省略〉

以上

別表二の1

〈省略〉

(△は還付すべき金額)

以上

別表二の2

原告山口節二 昭和49年分所得税更正額(昭和51年6月3日付)の根基

税額計算過程

〈省略〉

以上

別表三の1

〈省略〉

(△は損失額)

以上

別表三の2

原告山口ミツ 昭和50年分所得税更正額(昭和54年10月30日付)の根基

1.分離課税の長期譲渡所得

譲渡をした年の1月1日現在で所有期間が10年を超える上地建物等を譲渡した場合には、次により所得を計算する。(租税特別措置法31条1項)

収入金額-取得費-譲渡費用-特別控除額=長期譲渡所得金額

本件について譲渡所得金額を計算すると

〈省略〉

2.課税される所得金額

〈省略〉

3.税額計算

〈省略〉

4.税金から差し引かれる金額

(1) 配当控除

配当所得×%(所得税法92条)=配当控除

3,221,137×5%=161,056

(2) 源泉徴収により徴収された税額=1,275,247

5.納付すべき税額

〈省略〉

昭和50年分 長期譲渡所得金額算定の明細表

〈省略〉

以上

別表四の1

〈省略〉

(△は損失額) (△は還付すべき金額)

以上

別表四の2

原告山口節二 昭和54年分所得税更正額(昭和54年11月12日付)の根基

1.分離課税の長期譲渡所得

譲渡をした年の1月1日現在で所有期間が10年を超える土地、建物等を譲渡した場合には、次により所得を計算する。租税特別措置法31条1項)

収入金額-取得費-譲渡費用-特別控除額=長期譲渡所得金額

本件について譲渡所得金額を計算すると

〈省略〉

2.課税される所得金額

〈省略〉

3.税額計算

(1) 課税総所得に対する税額計算(昭和50年分所得税の税額表適用)

課税総所得金額×適用税率-控除額=算出税額

5,086,000円×20%-480,000円=893,220円

(2) 分離長期譲渡所得に対する税額計算(昭和50年分適用税率20%)

分離長期譲渡所得金額×20%=算出税額

20,488,000円×20%=4,097,600円

(3) 算出税額合計

(1)+(2)=

893,220円+4,097,600円=4,990,820円

4.税金から差し引かれる金額

(1) 配当控除

配当所得×%(所得税法92条)=配当控除

3,848,665円×5%=192,433円

(2) 源泉徴収税額

源泉徴収により徴収された税額 597,023円

5.納付すべき税額

(3の(3)算出税額合計)-(4の(1)配当控除)-(4の(2)源泉徴収税額)=納付すべき税額

4,990,820円-192,433円-597,023円=4,201,300円

以上

別表五の1

〈省略〉

(△は損失額) (△は還付すべき金額)

以上

別表五の2

原告山口洋三 昭和50年分所得税更正額(昭和51年10月30日付)の根基

1.分離課税の長期譲渡所得

譲渡した年の1月1日現在で所有期間が10年を超える土地、建物等を譲渡した場合には、次により所得を計算する。(特別措置法31条1項)

収入金額-取得費-譲渡費用-特別控除額=長期譲渡所得金額

本件について譲渡所得金額を計算すると

〈省略〉

2.課税される所得金額

〈省略〉

3.税額計算

〈省略〉

以上

〈省略〉

別表六

〈省略〉

以上

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